研究概要 |
本研究では、細胞内環境を模倣した分子クラウディング実験系を構築し、in vitroとin cellの橋渡しとなるような核酸構造と熱力学的安定性のデータベースを構築すること目的としている。本年度は、分子クラウディング中での核酸構造と、二重鎖構造の熱力学的安定性に対する金属イオン濃度効果を調べた。その結果、ポリエチレングリコールやグリセロール等の共存分子(クラウディング分子)はDNAやRNAの一本鎖領域構造を変化させるが、二重鎖構造は変化させないことが見出された。さらに、DNA二重鎖の熱力学的安定性を様々な金属イオン濃度で測定した結果、クラウディング分子が存在すると二重鎖構造の熱安定性は金属イオン濃度の影響をあまり受けなくなることがわかった。一方で、金ナノ粒子上で形成されるDNA二重鎖の安定性に対する金属イオン濃度の影響は非常に顕著であるという現象も見出した。平成18年度は、RNAの加水分解反応に対する影響に重点を置いて研究を遂行する。本年度すでに、分子クラウディング実験系を用いてリボザイム(RNA酵素)による基質RNA切断実験を試み、分子クラウディングはリボザイム活性を大きく向上させることを見出している。今後は、この加水分解速度の測定からクラウディング溶液中の実効金属イオンの濃度と実効pHを決定する予定である。さらに、我々が開発した擬塩基対ヌクレオシドによるRNA加水分解反応も試みる。この擬塩基対ヌクレオシドが形成する構造とRNA切断活性に関する研究成果は本年度に論文として発表している(J.Am.Chem.Soc.127,pp.518-519.Nucleic Acids Res.,33,pp.7111-7119)。この人工ヌクレオシドが有するRNA切断活性を利用することで、分子クラウディング環境下におけるRNA加水分解反応の追跡が可能になると考えている。
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