研究概要 |
本年度,建設サイトがフランス・カダラッシュに決まったITERのダイバータ板材として,炭素材とタングステン材との併用が有望視されています.しかしながら,この併用は両材料間の混成を引き起こし,プラズマ対向壁材としての十分な機能を果たし得るのか疑問視されています.そこで,本研究は,付着した炭素不純物により,周辺プラズマに照射されたタングステン材の損耗特性がどのように変化するのか,また,その背後にある要因を明らかにしました.特に,化学スパッタリング,偏析,拡散といった表面に付着した炭素不純物の熱的な振舞いに注目しました. 其々の効果(化学スパッタリング,偏析,拡散)の寄与を纏めますと,次のような知見を得るに至りました. 1.付着炭素不純物の化学スパッタリング(水素によるメタン放出)の寄与がありますと,タングステン材の損耗が激しく生じ,実験結果を再現することができません.このことは,タングステンカーバイト(WC)の形成に端をなし,化学スパッタリングが十分に抑制されていることを意味しています. 2.付着炭素不純物の偏析(up-hill diffusion)の寄与がありますと,プラズマ温度・密度が高い所の損耗が抑制され,プラズマ温度・密度が低い所の付着が強められます.しかしながら,劇的な変化を伴わないので,偏析の寄与も小さいことが理解できます.このことは,実験結果とも矛眉しません. 3.付着炭素不純物の拡散の寄与がありますと,タングステン材の損耗特性は劇的な変化を示します.つまり,拡散の寄与により,ターゲット温度が上昇するにつれて,損耗から付着へ移り変わる臨界炭素不純物密度が低くなります.これは,拡散により炭素不純物(WC混成層)が奥深くまで著しく侵入するためです.このWC混成層の成長は,実験的に観測されたWC混成層の厚さとも一致します.
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