近年、高エネルギーの重粒子線を利用したがん治療に大きな期待が寄せられている。重粒子線によるがん治療を適正かつ効果的に行うためには、人体を構成する原子核と重粒子との相互作用について高精度なシミュレーション計算を行う必要があるが、計算の基礎となるフラグメント生成反応についての実験データ、特に生成フラグメントの放出角度に関する情報がなく、計算の中で最も不確かな部分となっている。そこで本研究では、高分解能の二次元位置検出器を中心とした検出器システム開発し、主要な重粒子入射反応における生成フラグメントの放出角度に関する実験データを系統的に測定、整備することを目的として研究を行った。 本年度は、重粒子入射軽フラグメント生成反応に関する二重微分断面積の測定実験を実施した。使用した検出器システムは、昨年までに製作した多芯線型比例計数管(MWPC)と積層型GSO(Ce)スペクトロメータである。実験では、放射線医学総合研究所の重粒子線加速器施設HIMACからの炭素ビーム(290MeV/u)を人体の主要構成元素である炭素(グラファイト)標的に入射させ、核反応によって生じる陽子の測定を行った。その結果、ゼロ度近傍における陽子生成反応の二重微分断面積を実験的に決定することができた。また、近年開発された新しいシンチレータであり、次年度以降の実験での使用を予定しているLYSO(Ce)シンチレータについて、重粒子に対する応答を調べた。その結果、LYSOシンチレータの重粒子に対する光出力応答が初めて得られ、それがBirksの公式によってよく再現されることが分かった。
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