中性子-γ線が混在する被ばくのうち、歯エナメル質のESR計測に基づく線量評価が有効となる状況として、臨界事故が想定される。そこで、今年度は、前年度に入手した情報に基づき、臨界事故の被ばく者に対するESR計測に基づく線量評価法の研究を進めた。 研究では、歯モデルを有する人体模型を用いて、1999年に東海村のウラン加工施設で発生した臨界事故で重度被ばくを受けた者の線量を計算シミュレーションにより解析した。ここでは、事故発生時の線源、被ばくの幾何条件などを可能な限り再現したモデルを用いて、歯を含む身体各部の線量を線質(中性子、γ線)別に評価した。その結果、歯の受けたγ線による線量は、放射線医学総合研究所が事故後にESR計測で評価した線量の報告値と±10%以内で一致した。以上より、前年度に岡山理科大学との意見交換で聴取したように、本手法は中性子に対する感度が著しく低いことが確認された。また、臨界事故では中性子及びγ線の発生源となる核燃料は大きな容積を持つ可能性が高い。そのため、核燃料近傍で不均等被ばくを受けた場合でも、事故直後における医療措置の方針などを決定する際に必要なγ線による全身の被ばく線量は、ESR計測で合理的に評価されることも明らかにした。 以上の結果は、平成18年6月にスウェーデンで開催された「第10回中性子線量計測に関する国際シンポジウム」で報告した。同シンポジウムでは、ESR計測による線量評価では、歯の部位により中性子に対する感度が異なる点を聴取した。そこで、日本原子力研究開発機構の過渡臨界実験装置で同一の歯試料から抽出したエナメル質と象牙質を照射した。
|