白色軟X線を用いた透過型X線顕微鏡は10〜100nmの位置分解能を実現し、しかもエネルギー吸収端計測から元素・分子分布解析をも可能にする優れた生態観察システムである。本研究では、動的生理状態そのものを直接観察できる生体観察システムの実現を目指し、透過型軟X線顕微鏡の受光素子に適用可能な超伝導転移端マイクロカロリメータ(TES : Transition Edge Sensor)の開発を進めている。TESは放射線入射による温度上昇を超伝導体転移領域中の急峻な温度抵抗変化を用いて高感度に検出するもので、低エネルギーシングルフォトンに対して極めて高い量子効率と高エネルギー分解能を実現しうる。本研究では小型かつ簡便な3He減圧型冷凍機で得られる冷却温度350mKにて動作する汎用性に富む検出システムを目指し、受光素子の有感面を多数のピクセルに分割し、それらのピクセルを電気的に並列接続してSQUID増幅器を用いた単純かつ合理的な信号処理回路で全ピクセルの信号を読み出すことを検討している。今年度は窒化シリコンメンブレン上に超伝導薄膜の熱伝導特性向上と動作温度低減を図るべく独自の金チタン金3重層素子の開発を試み、380mK付近にて極めて急峻な超伝導転移を示す温度センサを実現、同時に冷凍機内にSQUIDアレイ電流増幅器を用いた超伝導信号読み出し回路を構築した。そして金チタン金TESピクセル4個からなるアレイ素子を並列バイアスにより駆動させ、超伝導転移領域中において安定して動作することを実証し、続いて5.9keVのX線源からのシングルフォトン検出に成功した。さらにピクセル内入射位置による信号特性依存性の検証、及び熱伝導特性向上を目指した素子の改良も試み、これまでに既存の半導体検出器を上回るエネルギー分解能を達成し始めており、高精度な軟X線スペクトロスコピーの実現が期待される。
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