本研究の目的は、複雑な形状の臓器に対しても照射野形状を精度よく合わせられるスキャニング照射を、体幹部の呼吸移動性臓器に適用する際の問題点を明らかにし、その解決法を探すことである。 本年度はまず、スキャニング照射のシミュレーションを行うための基本的ソフトウェアの枠組みを形成した。患者CT画像や輪郭を取り込むことで、照射の計画を立てる「治療計画」と呼ばれる部分と、時系列CT画像(4D-CT)による実際の患者の動きに対して照射をシミュレートして線量分布を算出する部分に大きく分けられる。これらソフトの枠組みと模擬的に作成した4D-CTによるデモンストレーションを、2005年11月の日本放射線腫瘍学会第18回学術大会において、「粒子線スキャニング照射を呼吸性移動臓器に適用する際の線量分布シミュレーション」というタイトルで口頭発表行った。 2005年秋には高速マルチスライスCTの運用が開始されたため、高位置分解能な画像を呼吸の各位相で得ることの出来る利点を生かし、まずは動体ファントムのCT画像を取得した。この動体ファントムは、体表面を模擬したアクリル水槽中内で模擬腫瘍を動かすものであり、CT視野内に金属部品を使わずに簡略モデルの動きを再現することでCT撮影を可能とした。水槽部には肺を模擬して空気を入れることも、肝臓などの軟部組織を模擬して水を封入させることもできる。模擬腫瘍はサインカーブ(振幅<20mm、周期<3秒で可変)での動きを行い、線量計を封入することもできる。重粒子線治療はブラッグピーク特性から横方向と深さ方向での動きによる影響が異なることから、水槽全体を回転させて動く方向を制御させることにした。この動体ファントム撮影に基づくスキャニング照射のシミュレーションした結果の一例をThird International Conference on Translational ResearchでPoster-Oral発表「Dose Distribution of Heavy-ion Scanning Irradiation Simulated for Moving Target」を行った。同様の結果を日本医学物理学会機関誌に報告している。
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