任意の蛋白質においてそれぞれのアミノ酸座位に働いている自然選択を系統樹を用いて検出する方法である鈴木-五條堀法について、1.誤った樹形が用いられた場合の自然選択検出の結果に及ぼされる効果の解明、2.適用不可なコドン座位を少なくするための改良、3.それぞれのコドン座位について塩基の多重置換の補正を行いつつ独立に中立性の検定を行うことができる方法の開発、を行うことを目的として研究を行った。 1.系統樹を同義置換数を最小にするように近隣結合法で作成した場合には、正しい系統樹を用いた場合と比較して、樹形の誤りの程度が大きくなるにつれて非同義置換数と正の自然選択を受けている座位数を過大推定することが分かった。系統樹を同義置換数と非同義置換数の両方を考慮した進化的距離であるp-distanceを用いて作成したところ、樹形の誤りの程度と非同義置換数ならびに正の自然選択を受けている座位数の過大推定との間の相関を減少させることができた。 2.鈴木-五條堀法が適用できないコドン座位が存在する理由は、系統樹の内部結節における祖先コドンの推定を、塩基を単位として、最大節約法を用いて行っていたためである。そこで、コドンを単位として、ベイズ法を用いて単一の祖先コドンを推定し自然選択を検出したところ、感度と特異度をあまり変えることなく適用不可の座位数を劇的に減少させることができ、結果として全体的な感度を上昇させることができた。 3.それぞれのコドン座位において、塩基置換における多重置換の補正を行いつつ、独立に中立性の検定を行うことができる方法として、コドン置換行列を仮定し、最尤法に基づいた単一座位における自然選択検出法を開発した。この方法を実際にC型肝炎ウイルスの外被糖蛋白質に適用したところ、鈴木-五條堀法と比較して感度が高いことが示され、また生物学的に信頼できそうな結果が得られることが分かった。
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