代替表現型とは性内における繁殖行動や生活史などの変異のことで、「ファイターとスニーカー」といったような全く異なる2タイプの変異のことを指す。代替表現型が生じるのは普通雄であり、その進化には主に分断的な性選択が関与してきたことが指摘されている。一方、雌において代替表現型がみられるのは、例えばウンカ類のはね二型(長翅型と短翅型)など、ごく少数の種に限られている。そのためか「雌の代替表現型がどのように進化し、どのようなメカニズムで種内に、そして個体群内に維持されているのか」は非常に興味深い問題であるが、未解明のまま残されている。いくつかのサケ科魚類では、雌雄とも生活史二型(降海型と河川残留型)を持つ。これらの種では一般に、個体群内において雄には二型が普通にみられる一方で雌のほとんどは降海型となるが、非常に少ない頻度で雌にも残留型が生じることが知られている。そこで本研究では、サケ科魚類の1種(サクラマス)を対象に、個体群内において雌の代替表現型(生活史二型)が共存している進化的なメカニズムを明らかにすることを目的とする。 今年度は当初の予定のとおり北海道檜山管内の須築川と後志利別川において野外調査を行い、幼魚の成長パターン等の本研究に必要なデータを得た。しかし、調査河川における今年度の生息密度が非常に低かった等の理由で飼育実験用(人工授精用)親魚の捕獲数が目標を下回った。そのため、今年度の開始を予定していた飼育実験を見合わせた。来年度は調査河川の変更も視野に入れ、本研究を遂行する予定である。また、今年度は、本課題の関連研究の1つ(サクラマスにおける生活史形質の地理的変異)が進化生態学・進化生物学の一流誌である"Evolution"に掲載された。
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