社会性昆虫では複雑な社会構造を示すコロニーの中に分業と多型性に至るカースト分化が見られる。特にシロアリではそのカースト分化経路は顕著で、例えば兵隊カーストはワーカーカースト(働き蟻)から前兵隊というステージを経て形態を変え、分化する.各カーストは同じゲノム情報を持っているにもかかわらず、発生の過程で分化し、最終的には異なる形態を示す.この現象は、表現型可塑性の1つである表現型多型である。そのシロアリのカースト分化は、他個体のプライマーフェロモンの影響を受け、体内の幼若ホルモン濃度の調節により生じる現象だと考えられる. 本研究では、オオシロアリの兵蟻分化を幼若ホルモン類似体(JHA)で誘導し、その際の遺伝子発現をディフェレンシャルディスプレイ法で解析した.得られた14個の特異的なcDNAの中、チトクロムP450と相同性を示すCYP6AM1という遺伝子をクローニングした.CYP6AM1は擬職蟻と兵隊の脂肪体に発現され、兵隊カースト分化過程の際に抑制される.したがって、CYP6AM1は幼若ホルモンに抑制され、オオシロアリの基本代謝に関わる機能を果たすと示唆された.この結果は国際学術雑誌Insect Molecular Biologyに発表した(Cornette et al. 2006)。 同じく、JHAで兵隊分化を講導し、ホルモン応答による初期の組織変化を組織切片で調べた.脂肪体の変化は一番早く、顕著であった.ホルモン処理三日後に脂肪体は既に肥大化し始め、十日後に体腔を完全に満たすようになった.脂肪体の発達と共に細胞内タンパク顆粒が蓄積され、前兵隊脱皮の準備の際にそのアミノ酸源は利用され、新しい構造とクチクラができる.これらの現象の時間的な配列とホルモン環境との関係を考察した(論文準備中). これらの成果は日本進化学会第7回大会において発表した.
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