研究概要 |
本研究では、生育温度へ植物が馴化するときのコストを定量すること、またどのATP消費過程のコストが変化するのかを調べることが目的である。本年度は、材料として異なる3段階の温度で栽培したペチュニア(Petunia hybrida)の花弁を用いて、生育温度によるコストのちがいや、生育段階におけるコストの変化を調べることを目的とした。花弁は非光合成器官であるためコストの解析が非常に容易である。またペチュニアは1個体に多数の花をつけるために花弁の解析をする上では有効な材料である。栽培温度条件は20℃,25℃,35℃とした。調べるコストの成分として、構成呼吸成分、タンパク質のターンオーバー成分、その他の維持呼吸成分の3つに分け、それぞれを定量した。呼吸速度は気相型酸素電極を用いて測定した。構成呼吸は炭素含量・窒素含量・ミネラル含量から窒素源の違いを考慮して推定した。タンパク質のターンオーバーコストはタンパク合成阻害剤下の呼吸速度の減少分から推定した。花弁の一生を通じた呼吸量は、20℃生育の個体の花弁で高かった。また呼吸の多くは構成呼吸ではなく、維持呼吸であった。構成呼吸量は生育温度による変化が小さかったが、維持呼吸量は大きく変化した。タンパク質のターンオーバーコストは、維持呼吸のうちそれほど大きな割合ではなかったが、35℃生育の個体の花弁では多く、約20%を占めた。葉ではタンパク質のターンオーバーコストが維持呼吸の多くの割合を占めることを考えると、花弁での結果は大変興味深いと言える。今後は、生育温度による呼吸からのATP生成効率の変化を考慮して、解析を進める予定である。
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