平成18年度は、南大東島で繁殖しているモズの捕獲、計測、採血、繁殖状況の追跡、遺伝解析のすべてで大きな進展があった。特に形態、および生態に関する情報は、以下の知見をはじめ、多くの成果が得られた。 モズの親による雛への餌配分様式について検討した。その結果、雄親は、4雛巣ではより餌乞いの強い雛、5雛巣ではより体サイズの大きい雛に多く給餌していた。一方、雌親は、4雛巣、5雛巣のどちらの場合も、雛の餌乞い、体サイズ、性別に応じた給餌を行っていなかった。5雛巣は4雛巣よりも、1雛あたりの給餌回数が少なく、巣立ちまでに雛数の一部削減が起こる頻度が高かった。つまり、4雛巣では餌乞いの強い雛を選んでいた雄親も、5雛巣ではより生残の見込みが高い、体サイズの大きい雛を選んでいると考えられた。一方、雌親は雛数によって餌分配様式を変化させることはなかった。これは性別による寿命の性差が影響しているとためと考えられた。南大東島のモズの雌は雄よりも寿命が短く、繁殖の機会が少ない。そのため、雌親は平等に給餌し、全ての雛を巣立たせることで適応度を最大にすると推察された。先行研究では、親の餌分配様式の性差の有無を実験的に操作した揚合に、つがい相手の餌分配様式によってつがいの片方の餌配分様式に変化が起こるかどうかが議論されてきた。本研究は、餌分配様式の性差の変化を野外で初めて確認することができた。さらに、親による餌分配様式の性差は、それぞれの親が置かれた給餌環境に応じ、様々な度合いで給餌戦術が変化した結果であることが示唆された。両親による雛への餌分配様式は、種間、種内のそれぞれで様々な変異を持ち、多様であることがわかった。 外見から性の判別ができない雛の性を判別するためにCHD遺伝子を用い、対象とした雛はほぼすべてで性が判別された。近親交配の状況を解明するために同属の他のモズ類で有効性が確認されている6つのマイクロサテライト領域が、南大東島のモズでも利用可能であることがわかった。そのうちの5つの遺伝子座で2から7個の対立遺伝子が確認された。ヘテロ接合度の期待値と実測値には有意な差はなく、個体群内ではランダムな交配が行なわれていると推察された。申請課題を解明するためには、標本数を増やし、個体レベルでのヘテロ接合度の算出を行ない、つがい間の遺伝的類似性と繁殖成績の関係を解明することが重要である。遺伝的類似性が高いつがいは、近交弱勢により卵の艀化率の低下、雛の成長不良、巣立ち前の死亡などが現れると予測される。 なお、今後さらに研究を展開するために、南西諸島におけるモズの生息状況を確認する目的で宮古島、奄美大島においても予備的な観察を行なった。
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