ゴミグモの網を2000分間ビデオ撮影したところ、捕食者(狩りバチ及びムシヒキアブ)による攻撃が五回(全て失敗)観察された。18年度の観察結果と合わせると、平均して660分に一回捕食者と遭遇していることになる。本年の観察のうち4回では、攻撃を受けている最中もしくは直後に網に餌昆虫が衝突しているが、いずれの場合もクモは餌に反応しなかった。このことから、捕食者の存在がクモの採餌行動に影響を与えている重要な要因である事が示唆された。 そこで、ギンメッキゴミグモに捕食者の翅音を真似た音叉刺激を与え横糸密度の変化を観察したところ、変化は見られなかった。一方、隠れ帯の長さは有意に大きくなった。隠れ帯は紫外線領域の光を良く反射している事から、目立つ構造を網に付ける事で捕食者の注意をクモから逸らす事が捕食回避に繋がると考えられる。18年度に実験を行なったサガオニグモでも同じ結果が得られた事から、この対捕食者機能はクモに一般的である可能性が示唆された。 網の背景から来る光について、可視光領域で種間で変異が見られたが、紫外線領域では変異は相対的に少なかった。しかし、ギンメッキゴミグモにT字迷路を用いた紫外光に関する採餌場所選択実験を行なったところ、紫外線を含む光で照明された場所を有意に強く選好していた。隠れ帯は、環境光に紫外光を含む場所でのみ対捕食者機能を持つと考えられることから、この選好性も捕食者への適応である可能性が考えられる。 これらの結果から、捕食者の紫外光を知覚する能力がクモの生態に大きな影響を与えていると結論づける事ができる。これらの結果は、動物における種間相互作用の研究において、関与する種の感覚特性を考慮することの重要性を示唆している。
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