標高の上昇に伴い生育する樹木のサイズが小さくなることは良く知られた現象である。この現象を説明する仮説の一つとしてシンク制限仮説が提唱されており、それを裏付けるデータとして、高標高域に生育する個体は低標高域に生育するものに比べて貯蔵炭水化物濃度が高くなる(すなわち、光合成は十分可能であるものの生産された炭水化物が成長に利用されずに蓄積している)、という結果が報告されている。ただし、この結果からは高標高域における栄養制限の結果生じた炭水化物の蓄積の可能性が排除されていない。そこで本研究ではシラベ稚樹を用いて、シンク制限と栄養塩制限それぞれの影響を分離し、亜高山帯における樹木の成長制限に対するシンク制限の重要性を評価することを目的とする。 本年度は、昨年度より2標高(高標高・低標高)×2栄養条件(貧栄養・富栄養)の環境条件下で栽培を開始したシラベ稚樹において、各個体の成長量・貯蔵炭水化物量の測定を行った。その結果、生育期間時の成長速度はいずれの栄養条件においても低標高で大きく、とりわけ富栄養条件でその差は顕著であった。またいずれの標高においても富栄養条件の個体の成長量が大きかった。シラベの葉に含まれる炭水化物は、デンプンよりも可溶性糖分の割合が高かった。可溶性糖分・デンプン共に、いずれの標高においても栄養条件の影響を強く受け、貧栄養条件でより高濃度の炭水化物が観察された。TNC濃度は、貧栄養・富栄養のいずれの栄養条件であっても高標高生育の個体で高い傾向が示された
|