これまで光受容蛋白質(オプシン)の研究は、脊椎動物、節足動物、軟体動物など高度に発達した光受容器官(眼)を持つ三胚葉動物に限られており、原始的な動物光受容の分子基盤は全く不明であった。本研究では、動物の光受容蛋白質および光受容システムの起源を調べる目的で、三胚葉動物出現以前の原始的動物(海綿動物、腔腸動物)の光受容蛋白質の同定、解析を行った。 1.最も原始的な動物である海綿動物は幼生期に走光性を持つことが知られている。本年度は、一昨年から行ってきた予備調査の成果として、これまで採取困難であった走光性を持つクロイソカイメンの幼生の大量調達に成功し、質・量とも分子生物学実験に堪えるRNAの調整に成功した。PCR法による遺伝子クローニングを試みた結果、動物の視物質として一般的なオプシンは得られなかったが、別の光受容蛋白質であるクリプトクローム遺伝子の単離に成功した。また、クリプトクロームの生体内局在を調べる目的で、カイメンクリプトクローム特異的抗体の作製を開始した。 2.二胚葉動物の中で最も発達した眼を持つアンドンクラゲ(腔腸動物・箱虫綱)の感覚器複合器官からオプシン遺伝子のクローニングに成功した。分子系統解析の結果、アンドンクラゲのオプシンは既知のどのタイプのオプシンにも属さなかった。アンドンクラゲオプシンの機能解析を行う目的で、アンドンクラゲオプシンの培養細胞での発現ベクターの構築、免疫組織化学的解析のための抗体の作製を行った。また、二胚葉動物の光情報伝達系を明らかにするために、感覚器複合器官からオプシンのエフェクター分子であるG蛋白質αサブユニット(Gα)のクローニングを行い、現在までにG12/13、Gq、GiタイプのGαの単離に成功した。
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