アゲハの視覚中枢は、網膜側から視葉板・視髄・視小葉複合体からなる。視覚情報はこの視覚中枢において情報処理された後、脳葉で他の感覚等と統合されると考えられている。 今年度は、所属する研究室における免疫組織化学実験系の確立を目的に実験を行った。昆虫の脳組織において神経伝達物質として注目されているアミン類のうち、セロトニン抗体陽性細胞の同定を非蛍光発色と蛍光発色の両方の方法で試みた。その結果、視葉の全ての神経叢にセロトニン抗体陽性神経(5-HTニューロン)の神経突起を確認した。また5-HTニューロンの細胞体を約70〜80対同定した。視葉にある細胞体を、分布域から背側、中央、腹側3グループにわけた。背側と腹側の細胞体は、非常に小さく主に視髄の遠位側に神経軸索を伸ばしていた。中央のグループには、大きな細胞体と比較的小さい細胞体が混在していた。大きな細胞体からは、複数の神経叢に軸索が伸びていた。視葉板と視髄の遠位部では、個眼単位であるカートリッジの周りにのみ神経突起が存在し、ここでは5-HTニューロンは特定の神経とシナプスを作らないようだ。視髄と視小葉にあるカートリッジ構造と並行に走る軸索と直行するように走る神経突起があった。また、視小葉に分布する5-HTニューロンの一部は、脳葉の後方に細胞体を持つことを確認した。5-HTニューロンは、タバコスズメガやゴキブリで、体内時計に関係することが示唆されている。アゲハ5-HT-ニューロンは細胞体の数に違いがあるが、基本的に似た布様式を持っていた。このことから、アゲハ脳においてもセロトニン神経は、体内時計にあわせて感度調節などの働きをしているのだろう。 今年度は、所属研究室において、免疫組織化学実験系の確立を終えることができた。これにより、この系を基礎に他の抗体を用いた免疫組織化学実験を進めることが可能になった。
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