1.カースト間でのドーパミン合成酵素(DDC)活性の比較 同日齢の女王とワーカーの脳内ドーパミン量を比較したところ、女王の脳内ではワーカーの4-10倍量のドーパミンが存在することが分かった。この結果から、ドーパミンを合成する酵素(DOPA-decarboxylase:DDC)の活性がカースト間で異なると予想し、DDC活性を測定する実験系を開発した。開発した実験系では、2倍の酵素量の違いを統計的に有意に検出できるものであったが、カースト間の酵素活性はほぼ等しく、有意な違いは検出できなかった。 2.女王個体における蛹から産卵までの脳内ドーパミン量の変化 女王のドーパミン合成が羽化以前に完了している可能性を検討する目的で、女王の羽化以前のドーパミン量を測定した。蛹後期における女王の脳内ドーパミン量を調べたところ、羽化後の未交尾女王の脳内ドーパミン量との有意な差は検出できなかった。この結果から、女王の高い脳内ドーパミン量は羽化以前から維持されており、ドーパミン合成が蛹後期以前から活発に行われている可能性が示唆された。 3.DDC阻害剤摂取による脳内ドーパミン量への影響 無女王群のワーカーにドーパミンを経口摂取させたところ、ドーパミンは血中を通して脳内へも取り込まれ、卵巣発達が促進された。そこで、体内のドーパミン合成を実験的に操作するために、DDC阻害剤(ベンゼラジド)を高濃度・低濃度で経口摂取させる実験を行った。高濃度の阻害剤を摂取させた実験区では、死亡率が高く、実験開始後12日目で全個体(30匹)が死亡した。低濃度の阻害剤を摂取させた実験区では、12日目までに約80%の個体が生存していたが、それらの個体の脳内ドーパミン量はコントロール実験区の個体とほぼ同じであり、阻害剤の効果は見られなかった。DDC阻害剤の摂取濃度について、今度検討する余地がある。
|