水生植物ヒルムシロ属のササバモは高水温でも生育を続けるが、同属の近縁種ヒロハノエビモは生存できない。本年度は、高温順化に重要な、葉緑体局在性低分子熱ショックタンパク質(cshsp)について、遺伝子発現パターンと遺伝子構造を解析することにより、生態的分化の遺伝的背景について検討した。またササバモとヒロハノエビモ間の自然雑種について成長解析をすすめた。得られた結果のうち1、2は論文作成中であり、3については論文の掲載が決定した。 1.cshspの遺伝子発現 発現している2種類のcshspのうち、cshsp2が順化処理により発現量が増大し、高温順化に関わることが示唆された。ヒロハノエビモのcshsp2は、保存されているはずのドメインにおいて欠失があった。さらに高温ストレス処理1-2時間において、cshsp2の発現量はササバモの方が、ヒロハノエビモに比べ高い。 2.cshspのプロモーター Cshsp2上流の塩基配列解析から、HSE因子とABA応答配列が確認された。これら転写因子結合配列は、種間で保存されていた。これらのことからササバモは系統進化の過程でHSFやABAを介した情報伝達経路を変化させることにより高温順化能力を獲得してきたと考えられた。 3.自然雑種における沈水条件の成長とSLA 自然雑種は母系により生育型可塑性の程度が異なる。しかし水中培養では、成長やSLAに違いが認められない。今後は雑種において、光強度以外の要因(温度や光質)への応答を中心に生理学的解析をすすめ、生態型の多様化に関わるゲノムの実態を明らかにしていきたい。
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