科学博物館が収蔵している東アジアの鳥類DNA標本を用いて、DNAバーコーディングでターゲット領域とされているミトコンドリアCOI領域を解析した。北米の鳥類では、96%の種において種内変異が2%以内に収まり、種間の差異が2%以上となることで、COI領域を使えば2%を境界に種を分けることが可能とされた(Hebert et al. 2004)。ところが東アジアで調べると、ツグミ属のうちシロハラ上種に属する4種はすべての種間で2%以内の差異しかないことが判明した。また、種内の変異においては分析した3割の種(20種中6種;メボソムシクイ、ヤマガラ、ゴジュウカラ、メジロ、カワラヒワ、カケス)で2%を超える種内変異が見られた。東アジアの鳥類では種内変異は2%以下であるとみなすことはできず、亜種が違えばCOI領域の塩基配列も5%程度までは違ってくる可能性が示唆された。韓半島と日本の集団間での種内変異は小さいが、特に台湾と日本の集団間の変異がいくつかの種で大きいことがわかった。また、ウチヤマセンニュウとシマセンニュウは亜種間の系統が入り乱れており、両種とも単系統群でないことが示された。これらの結果から、1)DNAバーコーディングをおこなう際には鳥類ではすべての亜種の配列を押さえておく必要があること、2)東アジア地域のいくつかの鳥類は隠蔽種が存在するなど種の分類を見直す必要があることがわかった。以上の結果について、日本鳥学会盛岡大会で発表し、またウチヤマセンニュウとシマセンニュウの分子系統と形態進化分類について国際鳥学会ハンブルグ大会で発表した。さらに、1)小笠原諸島を分布の東端とする小鳥類の小笠原集団についてバウチャー標本とDNAを採集して分析し、2)国内外の諸機関の研究者に共同研究を呼びかけて、鳥類DNAバーコーディングの本格的実施に向けた準備をおこなった。
|