研究概要 |
相模湾初島沖の深海冷水湧出域(プレート同士が衝突する沈み込み域に存在し,熱水噴出域と同様に化学合成生態系を形成する)底泥サンプルを用いて,環境クローン解析を行った。その結果,担子菌酵母であるCryptococcus curvatus由来の配列が圧倒的に多く得られた。この結果は,以前調査した南西諸島近くに存在する黒島海丘冷水湧出域での調査結果と同じであった。C.curvatusが真核微生物として優占する現象は冷水湧出域における一つの特徴である可能性がある。しかし,なぜこの酵母が冷水湧出域で優占するのかは現在のところ不明である。その他に様々な真核生物グループ(Alveolata, Stramenopiles, Cercozoa, Opisthokonta)に属する配列だけではなく,高次レベルで所属不明な配列も得られた。これらの配列の中には,様々な貧酸素環境から得られたクローン配列のみで構成される,生物としての実体が分からないグループに含まれるものも存在した。このようなグループは貧酸素環境に適応した生物に由来していることが強く示唆される。また,Gregarinea, Phytomyxea, Ichthyosporeaといった寄生性生物由来の配列も多く得られ,その生態学的な意義の解明が今後の課題として残された。さらに,相模湾底泥サンプルを2種類の培地を用いて嫌気培養を行い,その培養サンプルのクローン解析も行った結果,配列の組成(つまり真核生物の顔ぶれ)は培養を行わなかった底泥サンプルとは全く異なり,1つの培養サンプルでは複数のstramenopileの配列が多く得られ,もう1つの培養サンプルではExcavataに属する1つの配列が多く得られた。我々は,このExcavataに属する生物の培養にも成功しており,その詳細な解析(微細構造観察や発現遺伝子解析)も進行中である。
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