研究課題
オロチジン一リン酸脱炭酸酵素(ODCase)は、オロチジン一リン酸(OMP)を脱炭酸しウリジン一リン酸(UMP)を合成する酵素として知られてきた。我々はこの酵素の10の17乗に及ぶ反応加速機構を明らかにするために、基質OMPに類似の構造を持つ競争阻害剤6-CN-UMPを合成し、これとODCaseの共結晶を構造解析したところ、6-CN-UMPはODCaseにより、ODCaseの最も強力な阻害剤である6-OH-UMP(BMP)に変換されることを見いだした。この新しい反応は3つの独立した実験で確認した。第一に、1.45Å分解能で行った結晶構造解析は明らかに6-CN-UMPではなくBMPの電子密度を示していた。第二に質量分析を用いた実験を行った。ODCaseと6-CN-UMPを混合し、すぐに質量分析したところ、ODCaseと6-CN-UMP複合体のピークが得られた。しかし混合後7日間静置し質量分析を行ったところ、BMPとODCase複合体のピークが得られた。第三に、6-CN-UMPはODCaseのOMPをUMPに変換する反応をあまり阻害しないが、BMPは強くこの反応を阻害する事を利用した酵素学的アッセイを行った。ODCaseと6-CN-UMPの混合物は混合直後はOMPをUMPに変換するが、混合して7日間おいたものはほとんど変換活性を持たなかった。これは6-CN-UMPのBMPへの変換を示している。通常のODCaseのOMPをUMPに変換する反応は求電子置換反応と考えられるが、この新しく発見した反応は求核置換反応と考えられる。また両反応が同じ部位で触媒されることは確認している。同じ酵素の同じ反応触媒部位が、求電子置換反応と求核置換反応を行う例は非常に珍しく、全く新しいタイプの反応触媒機構の存在が示唆される。
すべて 2005
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Journal of the American Chemical Society 127(43)
ページ: 15048-15050