本研究は、細胞外マトリックスの成分として重要であるヒアルロン酸と血清タンパク質インター-α-トリプシンインヒビターの長鎖サブユニットとの共有結合複合体(SHAP-HA複合体)の形成反応機序の解明と利用を目的とする。主にその反応を触媒する酵素因子の同定を予定している。前年度に引き続き、肝癌細胞培養上清からの精製を行った。精製効率を高めるために、新たにクロマトフォーカシングカラムによる分離を導入した。活性画分のpHは以前測定した等電点と一致していた。高精製度の活性画分を二次元電気泳動で分離し、予測範囲内の主要なスポットを質量分析法で同定したが、培養細胞でのcDNA過剰発現実験では酵素活性が確認されなかった。酵素タンパク質は残りのマイナスポットの中にあると判断し、それらの同定を継続している。また、研究執行の途中、国外の研究グループがTSG6タンパク質が酵素活性を持つと発表した。本研究実験系にて検討したところ、その活性はTSG6から由来するものではないと判明した。その理由として、TSG6過剰発現の肝癌細胞の培養上清からTSG6を除去しても、上清中の活性は殆ど変わらなかった。しかし、興味深いことに、TSG6が酵素因子の産生(おそらく遺伝子発現のレベルで)を増強する作用があることを見出した。その作用には、TSG6タンパク分子内のリンクドメインとCUBドメインがともに必要である。単独のドメインまたはそれらの混合物は増強作用を示さない。リンクドメインのHA結合能は必要ではない。同じHA結合能欠如のミュータントでも、TSG6(Y47F)は増強しないが、TSG6(F105V)はTSG6と同様な増強効果を示した。この制御機構の詳細は解析中である。
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