本研究は、非常に弱い相互作用により結合しているタンパク質複合体の立体構造解析のための手法を確立することを目的としている。研究材料としてESCRT II複合体とユビキチンを用いた。まず、マウスのESCRT II複合体のEap45タンパク質(酵母のVps36タンパク質のホモログ)について、様々な長さの領域の発現系を構築し、これまで未同定であったユビキチン結合領域を同定した。相互作用を表面プラズモン共鳴により解析したところ、平衡解離定数は0.46mMであり、生体分子間の相互作用としてはかなり弱いものであった。GSTタグを用いた大腸菌発現系を用いて精製法を確立し、タンパク質複合体の結晶化に着手した。精製タンパク質は不安定で、室温で容易に沈殿するが、低温で結晶化を行うことにより安定性の問題を克服した。Eap45とユビキチンとの相互作用は弱いため、通常の方法では複合体のまま結晶化しない可能性があったが、大規模な結晶化条件の探索を行い、複合体の結晶を得ることに成功した。結晶の質を向上させるため、数残基ずつ長さの異なる領域について同時並行で精製・結晶化を進めることで、最適な発現領域の探索を行った。放射光ビームラインにおいてX線回折データ測定を行い、3オングストローム分解能のデータ収集に成功した。しかしながら結晶は構造解析の困難な双晶であることが判明し、構造解析には至っていない。今後はリンカーやリガンドを加えて複合体の構造を安定化させる方法を探索する。
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