本研究計画では、相互作用が弱いため結晶化の困難なタンパク質複合体のX線結晶構造解析を目標とした。モノユビキチン化された膜タンパク質は、エンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれ、ユビキチンを結合する一連のESCRT複合体の間を受け渡されて多胞体(multivesicular body)に取り込まれ、最終的にリソソームで分解を受ける。ユビキチンとESCRT複合体との相互作用はいずれも弱く、複合体の結晶を作るのが難しい。本研究では、これまで相互作用様式が不明であった哺乳類のESCRT II複合体とユビキチンの複合体の結晶構造解析に取り組んだ。マウスのESCRT II複合体のサブユニットであるEap45タンパク質について、様々な長さの領域の発現系を構築し、発現精製可能なユビキチン結合ドメイン(GLUEドメイン)領域を同定した。Eap45タンパク質のGLUEドメインは非常に不安定で、室温で容易に沈殿するが、低温で結晶化を行うことにより安定性の問題を克服した。大規模な結晶化条件の探索を行い、ユビキチンとGLUEドメインの複合体の結晶を得ることに成功した。放射光ビームラインにおいてX線回折データ測定を行い、3.35オングストローみ分解能のデータを収集し、分子置換法により構造解析に成功し、相互作用様式を解明することが出来た。GLUEドメインはリン脂質とも結合するが、GLUEドメインのユビキチン結合部位は、リン脂質結合部位から離れており、両者は同時にGLUEドメインと相互作用可能であることも明らかになった。
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