研究概要 |
本研究ではモデル生物であるC.elegansの利点を活かし、更にバイオインフォマティクスの手法を用いることで多細胞生物複合糖質関連因子の発見や機能解析を行うことを目的としている。本年度、以下の成果を得た。 1.遺伝子情報解析用サーバーコンピューターを設置し、線虫、酵母、ショウジョウバエ、ヒト等、多種生物種の国際データベースにおける遺伝子配列情報を定期的に検索し、最新情報を自動で取得、管理するシステムを構築した。 2.また、上記のコンピューターに相同配列解析やモチーフ検索など(BLAST、HMMER、ClustalW等)のツールを導入し、多種生物種間で複合糖質関連因子の遺伝子及びアミノ酸配列の相同性解析を行った。その結果、C.elegansでは20,060遺伝子中、400前後の遺伝子が複合糖質関連因子をコードする可能性が示された(2006年3月現在)。 3.これら非常に多くの遺伝子の機能を解明するため、新しい網羅的遺伝子機能阻害の実験系を確立した。線虫分取装置(線虫ソーター)と、線虫の餌の大腸菌にdsRNAを発現させ、食べさせて行うRNAi(feeding RNAi法)を組み合わせ、マイクロタイタープレートに分取した線虫を個別にRNAi処理し、2週間で50遺伝子の機能阻害を可能とした。 4.実際に、産業技術総合研究所糖鎖工学センター・成松久博士のグループの支援をうけ、同グループが解析したヒト糖転移酵素のC.elegansオーソログ145遺伝子の内、108の遺伝子に対してRNAiによる網羅的機能阻害を行った。その結果1割以上の遺伝子で致死を含む激しい表現型を確認した。致死を引き起こす遺伝子にはグリコサミノグリカンの合成に関わる複数の酵素、糖鎖修飾や糖脂質の合成に必要な遺伝子などが含まれており、これまで報告されていなかった複合糖質の新しい生体内機能が強く示唆された。
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