エチレンは植物の生理現象に深く関与する植物ホルモンである。近年、植物のエチレン受容体として2成分情報伝達系に属するETR1 familyが同定され、エチレン情報伝達に関する植物生理学的な研究が多く報告されている。しかしながら、エチレン濃度情報を伝達する機構は分子レベルとなると、ほとんど解明されていない。これは、ETR1が高等植物由来の膜タンパク質であり、かつ、銅イオンを必須とする金属タンパク質でもあることから、その発現系構築が極めて困難であることが要因である。そこで、本研究では、X線吸収スペクトルなどの各種分光法や立体構造解析に供すことができる量のETR1タンパク質を得ることが可能となるような大量発現系構築を目的とした。 平成17年度からメタノール資源化性酵母P.pastorisを利用した大量発現系構築に着手し、さらに本年度はETR1 familyに属するERS1の発現系構築も試みた。いずれの場合にも、プロトコールどおりの手法では転換効率や再現性が悪く、安定した形質転換体が得られなかったため、エレクトロボレーターを用いることで転換効率の改善を行った。ETR1/ERS1タンパク質の発現を確認する第一のステップであるウェスタンブロッティングの結果から、現時点ではETR1やERS1タンパク質の発現確認に至っていない。 Gタンパク共役型受容体(GPCR)の場合、P.pastorisの変異株を用いることで大量発現系構築に成功した例が報告されているため、本研究でも期待の持てる変異株だと考えられる。この株を入手する手続きを行ったが、Material Transfer Agreement(MTA)の締結の関係から年度内に入手することはできなかった。
|