今年度、乳がんに関わる膜蛋白質HER2のエンドサイトーシス、細胞内輸送のメカニズムを解明するため、細胞内において、HER2の挙動を三次元的、および、ナノメートルスケールで観察するための顕微鏡法を開発してきた。 我々は、量子ドットであるCdSe蛍光粒子を抗体を介してHER2に結合させ、そのエンドサイトーシスや小胞輸送を観測した。まず、全反射照明を用いて細胞膜付近のモーター蛋白質の運動を、二次元的に観測した。独自に開発した顕微鏡を用いて、細胞膜付近でのCdSe粒子の運動をナノメートル、ミリ秒の精度で観察した。その結果、小胞の運動を約2nm/2msで観察することに成功した。細胞膜上では15〜45nmの階段状の運動が観察された。細胞内に取り込まれた小胞は、8nmのステップ状変位を伴いながら、核に向かって輸送されていった。 細胞内に取り込まれたCdSe粒子が細胞内部で輸送される全過程の追跡は、従来の顕微鏡の様な二次元情報のみの観察では、困難である。そこで我々は、蛍光粒子CdSeの運動を実時間で3次元的に観察できる顕微鏡システムを構築した。本システムは、330ms毎に9枚の共焦点像を取得し、ひとつの3次元画像を構築する。CdSe粒子の3次元位置は、蛍光強度を重みとした輝点の重心を計算することで求められる。位置精度は、CdSe単粒子では、水平方向〜20nm、垂直方向〜60nmであり、CdSeを数粒子凝集させると、水平方向〜6nm、垂直方向〜25nmであった。我々は本手法を用いて、モーター蛋白質が細胞内で機能する様子を3次元的に実時間で観察することに成功した。 開発した装置、及び、解析ソフトウェアは、他の細胞生物学研究においても使用できる。
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