生体分子モーターは、正にモーターと呼ばれている様に生体内での輸送や細胞運動などの駆動エンジンとしての重要な働きを担っている。本研究では、この生体分子モーターの1つであるロータリー型のF1-ATPaseをアクチュエータとして利用し、微少な推進機械の構築をめざす。マイクロマシンと言うほどの高機能な機械ではないにしろ、たかだか数十nm程度の分子モーターを駆動装置として利用し、水中を進んだり止まったりと自走できるモノを作り上げる。推進機構としては、同じ回転モーターである鞭毛をお手本にし、最終目標として、タンパク質の動作特性を活かした走性を持ったマイクロマシンを作り上げる。そして、生体分子モーターの応用例として1つの可能性を示したい。 アクチュエータとして用いるF1-ATPaseには、特異的な結合で基盤に固定できる好熱菌由来の変異体α3β3γサブコンプレックスを用いた。ステーター部分であるα3β3のβサブユニットのN末端には、遺伝子工学的にヒスチジン-タグが導入されておりNi-NTAと特異的に結合する。1〜3ミクロンのポリスチレンビーズ表面をNi-NTA化しビーズ表面にF1-ATPaseを固定化した。また、ローター部分であるγサブユニットの先端にはシステインが導入されており特異的に化学修飾することができる。このシステインをビオチン化し、ストレプトアビジンを介してスクリュー部分となるタンパク質と結合することを試みた。現在、スクリュー部分となるタンパク質としてアクチンフィラメントを検討している。アクチンフィラメントのB端に特異的に結合するタンパク質ゲルゾリンをストレプトアビジン-ビオチン結合を用いてγサブユニットに結合させ、γサブユニットからアクチンフィラメントを生やすことを試みている。
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