分裂酵母では、セントロメア由来の〜23ntの短いRNA(siRNA)が発現しており、RNAi様の機構がsiRNAを介して核内のヘテロクロマチン形成を行っていることが明らかとなってきたが、ヘテロクロマチン形成に関与するsiRNAの代謝機構ついては未だ不明な点が多い。本研究では、ヘテロクロマチン形成におけるsiRNAの受け渡しが細胞内でどのようになされているかを明らかにするため、種間で保存された二本鎖siRNA分解酵素Eri1に着目して研究を行った。分裂酵母におけるEri1相同遺伝子(eri1^+)を単離し、その組み換えタンパク質を用いたin vitroの実験から、分裂酵母Eri1が二本鎖siRNA分解することを確認し、その活性にはEri1に高度に保存されたSAPとEXO領域の機能が必要であることを明らかにした。また、SAPが二本鎖RNAに特異的に結合すること、EXOに弱いRNA分解酵素活性があることから、Eri1はSAPで二本鎖siRNAを認識し、EXOにより基質を分解していると思われる。Eri1のヘテロクロマチン形成における機能を調べるためeri1^+を破壊したところ、破壊株ではセントロメア領域におけるサイレンシングが促進され、全RNA中のsiRNA量だけでなくヘテロクロマチン形成を行う核内RITS複合体に含まれるsiRNA量も増加していることを明らかにした。この結果はEri1がsiRNAを介してヘテロクロマチン形成を負に制御していることを示している。一方、細胞分画実験により、Eri1およびsiRNA合成酵素Dcr1が細胞質に局在し、また大部分のsiRNAも細胞質に存在することを明らかにした。以上の結果から、ヘテロクロマチン形成においてsiRNAは細胞質で代謝された後、核内のRITS複合体に作用することによりヘテロクロマチン形成を行うという新しいモデルを提唱することが出来た。
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