出芽酵母のゴルジ体を初期ゴルジ、後期ゴルジに分けて単離し、それぞれのリン脂質種及び脂肪酸の鎖長、不飽和度を測定することでゴルジ体の層板ごとにリン脂質の非対称な分布が見られるかを検討するために研究を行った。さらに、単離したゴルジ体におけるリン脂質のフリップ・プロップ運動と脂質二重層の内層と外層での脂質の分布状態を解析する方法を解析する手法を確立するために、解析が比較的容易な哺乳類培養細胞を用いた系での確立を行った。NBD標識したホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、およびスフィンゴミエリンを培養細胞の形質膜外層に挿入させ、一定時間のインキュベーションの後外層のNBDを亜ジチオン酸で消光させることで外層から内層へ転移したリン脂質の割合を測定する方法を確立した。その結果、ホスファチジルセリンは30度、30分で、ホスファチジルエタノールアミンは30℃、120分で大半が内層へ転移し、ホスファチジルコリン、スフィンゴミエリンは殆ど転移しないことが分かった。また、アミノリン脂質のフリップ・フロップに関わる出芽酵母Ros3pの哺乳類ホモログであるmROS3をノックダウンした細胞では、形質膜におけるアミノリン脂質の外層から内層への転移効率が大幅に低下することを明らかにした。さらに、各種リン脂質結合プローブを用いて形質膜の内層、外層の脂質の分布状態を調べた結果、mROS3ノックダウン細胞ではホスファチジルエタノールアミン特異的結合プローブであるSA-Roの形質膜外層への結合量が野生株と比べて二倍程度上昇していることがわかり、mROS3のノックダウンにより形質膜のホスファチジルエタノールアミンの非対称分布が一部解消されていることが示唆された。今後これらの方法を単離ゴルジ体に応用していく予定である。
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