本研究の目的は、(A)高等動物に於けるミトコンドリア蛋白質前駆体の輸入反応の素過程を明らかにするため、その初期段階である、「細胞質因子によるミトコンドリア蛋白質前駆体の認識並びにミトコンドリア外膜の受容体へのターゲティング」に注目し、その分子機構を解明すること、並びに、(B)「一過的なミトコンドリアへの局在化」の分子機構を解明するために、蛋白質合成後、ある条件下でミトコンドリアに局在化することが報告されている蛋白質を用いて、その蛋白質のミトコンドリア局在化配列を明らかにし、その「一過的な局在化」に関わる、細胞質因子並びに膜透過装置を解析することである。(A)に関しては、新規のミトコンドリア前駆体タンパク質の外膜受容体であると考えられる、OM37のノックダウン実験を進めている。現時点では実験条件の検討中であり、特筆すべき結果は得られていない。次年度以降も鋭意継続していく予定である。(B)に関しては、一過的な局在ではないが、立命館大学の菊池正和教授との共同研究において成果があった。菊池教授らの研究により、プロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI)ファミリーの一員である、P5が、小胞体だけではなく、ミトコンドリアにも局在していることが示唆されていた(未発表データ)。この知見についてさらに確証を得るために実験を行い、以下の結果を得た。(1)細胞分画を行うと、ほぼ2:3の割合でミトコンドリアと小胞体に局在が見られた。(2)ミトコンドリアに局在しているP5は、ミトコンドリアにプロテアーゼ処理を行った場合でも消化されなかった。(3)低張処理によって外膜を破砕したミトプラストをプロテアーゼで処理した場合でも、P5はプロテアーゼに耐性を示した。(4)ミトコンドリアを超音波破砕した後超遠心にかけて沈澱と上清に分離したところ、意外にも、P5は、沈澱にも上清にも検出された。また、沈澱をアルカリ処理すると、そのほとんどが上清に回収された。以上の結果から、P5は、ミトコンドリアに存在し、マトリクスの可溶性タンパク質としてだけではなく、内膜のマトリクス側の表在性膜タンパク質として存在していることが分かった。P5は、アミノ末端に分泌型シグナルペプチドと、カルボキシ末端にKDEL配列を含む、典型的な小胞体残留型タンパク質であり、見かけ上明らかなミトコンドリア局在化シグナルは含んでいない。このような特徴をもつタンパク質が小胞体とミトコンドリアに「二極性局在」を示す例は現在までに報告がない。次年度以降に於いて、これらを解明するためより詳細な研究を計画している。
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