核マトリクスは核の物理的構造を支持する核骨格であると考えられてきた。しかし、近年、核内で起こる遺伝子発現制御においても重要な機能を発揮する可能性が指摘されている。生体内において皮膚細胞や腸上皮細胞など多くの細胞系列では、常に幹細胞からの機能細胞への分化と分化した機能細胞の異化のバランスによりその組織機能が維持されているが、肝臓では肝切除など特殊な場合を除いては、機能細胞の代謝は見られない。出生後、短期間に盛んに増殖するマウス肝細胞と、成熟して安定期に入った成獣の機能的肝細胞では、肝細胞自体の遺伝子の発現パターン及びそれを支える核内環境の質的変化が予想される。このような生涯を通じて比較的長期間維持される細胞の核マトリクス環境が、最終機能分化過程でどのように変化していくのかを観察することは、肝細胞での遺伝子発現調節を理解し、生体内での細胞の機能分化を考える上でも非常に興味深い。本研究において肝細胞での核マトリクス結合配列(MAR)も含めた細胞分化に伴う核マトリクス環境の変化にアプローチすることを主たる目的とした。本年度は、主として、MARプラスミドライブラリーの構築・評価の検討を行った。出生後7日及び2ヶ月のC57BL/6マウスの脱血した肝臓から単離した核マトリクス画分から抽出したゲノムDNA断片(MAR画分とした)に由来するMARプラスミドライブラリーの構築及びその評価としての塩基配列の同定及びマウスゲノム上へのマッピングを試みている。
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