脊椎動物の脳神経系のうち感覚神経成分には、心臓の拍動数のモニターや消化管の運動の制御といった自立的な恒常性の維持に関わる神経系が存在し、脊椎動物の生命維持に不可欠である。またその発生過程も特異であり、プラコードという外胚葉性の肥厚から形成されることが知られている。しかしながらその形成の分子機構については、最近ようやく各神経節に発現する遺伝子が知られてきたばかりである。本研究では、頭部感覚神経系のうち、上述のような恒常性の維持に不可欠な迷走神経をはじめ、顔面神経や舌咽神経を含む鰓弓神経節を対象とし、その形成に関わる分子機構を解明することを目的とした。 申請者はこれまでsox3遺伝子を用いて、鰓弓神経節の形成過程の記載を行ってきた。そこで当該年度はこの遺伝子のモルフォリノアンチセンスオリゴ(sox3-MO)を作成し、これを注入することでこの遺伝子の機能阻害実験を試みた。しかしながら、複数作成したsox3-MOは全て効果がなく、プラコード領域に発現する類似のsox遺伝子によって相補されている可能性が考えられた。来年度は、そのような類似の機能を持つsox遺伝子全ての機能を阻害できる可能性のある、改変型sox3を用いた機能欠損実験を試みたい。また、プラコードからの各神経節形成に関わる内胚葉の働きについて、内肺葉嚢に発現するfgf3に着目し、その機能欠損実験を行って各神経節に対する影響を検討した。その結果、舌咽・迷走神経節の形成が抑制された一方で、顔面神経節の形成は阻害されず、fgf3への依存性には差が見られた。このことは、同じ鰓弓神経節でもその形成に関わる機構は異なり、顔面神経節は内胚葉嚢からのfgf3シグナル以外の作用によっても十分形成されうることを示唆する。来年度は、このような他の形成機構の一つとしてneural crest細胞の寄与に着目して検討していきたい。
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