ショウジョウバエ視覚系において、各視神経の複眼内での位置とその軸索の投射先の位置は完全に対応している(retinotopy)。このような対応関係を保証する機構を明らかにするため、この過程に関わる遺伝子の機能を解析している。昨年度はWntファミリーに属する分泌性蛋白であるDWnt4の役割について重点的に研究し、視覚中枢の腹側で発現するDWnt4が視神経軸索によって受け取られ、non-canonical Wntシグナルを介して直接的に軸索走行を制御していることを示した。本年度は、遺伝学的相互作用の解析からDWnt4による軸索走行においてJNK経路が関与することを明らかにした。また、複眼背側の運命を決定するiroquoisホメオボックス遺伝子群の変異体では背側視神経上にDWnt4が異所的に局在し、視覚中枢の腹側に投射した。しかしDWnt4の受容体をコードするDfrizzled2とiroquoisの二重変異体においてはそのような表現型は抑圧されたため、iroquoisは背側視神経がDWnt4を受容する能力を抑制し、それによって腹側の視神経のみが視覚中枢の腹側に投射するものと考えられた。 脊椎動物においてはEph/Ephrinファミリー分子によってretinotopyが制御されることが知られており、ショウジョウバエにおいてもiroquoisやDWnt4以外の様々な遺伝子が関与していると考えられる。DWnt4の脊椎動物ホモログであるWnt9の役割は不明だが、脊椎動物においてはWnt3が背腹軸方向のretinotopyを制御することが最近報告された。脊椎動物と無脊椎動物においてretinotopyの分子機構がどのように保存されているのか、非常に興味深い問題である。
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