研究課題
17年度は、研究対象としているエンマコオロギ属3種のうち、分子系統解析結果からもっとも分岐が古く祖先的な歌を持つと考えられるエゾエンマコオロギのメスが、近縁他種であるエンマコオロギやタイワンエンマコオロギのcourtship songに強くひきつけられることを明らかにした。18年度は、エゾエンマと同所的に分布するエンマのメスに対する音声プレイバック実験を行い、メスの反応をservosphereを用いて詳細に記録した。その結果、エンマのメスは自種のcalling songおよびcourtship songに強くひきつけられ、同所的に分布する近縁他種であるエゾエンマのcourtship songにはひきつけられないことが明らかになった。これら2年間の結果は、calling songの研究からは歌による交配前隔離が成立していると考えられていたエゾエンマとエンマの交雑の可能性を示唆するものである。交雑が考えられる組み合わせはエゾエンマのメスとエンマのオスであり、このような場合、エゾエンマ側が一方的にコストを被ると考えられ、2種が共存する個体群では、エゾエンマのメスの聴覚特性の急速な進化と引き続いて生じるオスの歌の進化の可能性が予想される。また、エンマコオロギのcourtship songは自種であるエンマ、他種であるエゾエンマの両種のメスをひきつけるが、各々の種のメスが認識している部分は異なることが判明した。courtship songは、音響構造の異なるchirpとtrillという2つの部分から構成されるが、エンマのメスはchirp部分に、エゾエンマのメスはtrill部分に強くひきつけられていた。通常、自種の認識に重要とされるのはchirp部分であり、付加的と考えられるtrill部分に他種であるエゾエンマがひきつけられることは、これらの種群でのメスの聴覚特性の進化および歌の進化を考える上で大変興味深い現象である。
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Proceedings of the 9^<th> western pacific acoustics conference, Seoul, Korea, June 26-28, 2006
ページ: 597
昆虫と自然 41 (11)
ページ: 21-25