旭川市旭山動物園のシロテテナガザルを対象に、ソングのテシポに対する認知を調べる野外実験を行った。 テナガザルのソングはノートと呼ばれる個々の発声が組み合わされて構成されている。本年度は、3種類の異なるノート間隔をもったソングを作成し、これらをテナガザルに対して再生した。再生中と再生後の行動をビデオに記録し比較することで、テンポの認知がどのようになされているのか調べた。 まず刺激音であるが、伊豆シャボテン公園において飼育されているシロテテナガザルのオスが自然に鳴いたソングを録音し、デジタルファイルに変換した。音声分析ソフトウエアAvisoftを用いて、ノート間の時間間隔をすべて倍にしたものと、半分にしたものを作成した。このようにして作成した通常のソング(S)、ノートは同じだが間隔が倍のもの(D)、そして間隔が半分のもの(H)のそれぞれを、旭山動物園の野外ケージにおいて飼育されているシロテテナガザル4頭(オトナメスとその子供3頭)に対して再生した。再生は馴化を避けるために午前中に1回、午後に1回の1日2回のみとした。再生はスピーカーとラップトップコンピュータを接続し、1回ごとにスピーカーの位置を変えて行った。反応はデジタルビデオカメラ2台に記録し、動画ファイルに変換した後に動画分析ソフトウエアGscriptを用いて分析した。分析対象としたのは、子供のうち最年長のオス(5歳)の行動である。 ソングを再生中と、再生後同じ時間のあいだの移動時間割合を分析したところ、SとDに対しては有意な差がなかったが、Hの場合のみ、再生後に移動時間が有意に多くなることが分かった。このことから、テナガザルは早いテンポのソングを聞き分けて異なる反応をしているということがいえる。本研究は、シロテテナガザルが音声の時間的な要素について敏感であるということを初めて示したものである。
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