動物にとって手部や足部は、移動などの際、生息環境に直接触れる重要な部位である。霊長類の手足は一般に把握性をもつが、その形態には幅広いバリエーションがある。そうした形態は、系統、生息環境、移動様式、採食などさまざまな要因の影響を受けている。中でも身体の支持に関わる移動様式は、手足の形態に大きな影響を与えると考えられる。 霊長類の手足の形態学的研究はこれまで多くの研究者によって行われてきた。手足を校正する骨のうち、中手骨、中足骨は、手根や足根骨とともに四肢の長骨と指の間に位置し、手足の形態を決定する重要な骨であるが、他の部位に比べると、これまで詳細に検討されてきたとは言い難い。 そこで本研究では、中手骨、中足骨の三次元的な形態を記述して、移動様式などとの関わりを明らかにしようとするものである。また、得られた知見を化石種へ応用することで、霊長類の移動様式の進化についての理解を深めることを目指す。 中手骨、中足骨の三次元的な形態を検討する上で問題となるのは、定量的な計測を行うための手法が整備されていないことである。そのため、平成17年度は計測手法の確立に主眼を置いた。主に(財)日本モンキーセンターが所蔵する、広い分類群にわたる豊富な骨格標本について、詳細な観察を行った。検討の結果、中手骨、中足骨の捻転角や湾曲程度などの三次元的形態と、移動様式や把握性との間に、いくつか重要な関連性のあることが示唆された。 これらの検討を踏まえて、骨形態を定量的に調査するための計測項目を決定し、そのための装置の購入と器具の開発を行った。
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