霊長類は手足に把握性をもつのが大きな特徴である。手足ともに、運動器として移動の際に支持基体に接して環境とじかに相互作用する部位であり、さらに手には採食のための器官としてのはたらきもある。手足の中手部と中足部は、接触する支持基体や物体の形態に合わせて変形し、指とともに身体の支持や物体の把握に大きな役割を果たす。 このような手足の形態を立体的に把握することは、運動適応を理解する大きな助けとなる。ところが、中手部・中足部の3次元的形態は、これまであまり研究されてこなかった。本研究の目的は、真猿類における中手骨・中足骨の3次元的形態と運動適応との関係を明らかにし、さらに化石種への応用を図ることにある。 平成18年度は、平成17年度に開発した手法による中手骨、中足骨の形態データの蓄積を継続しつつ、平行して分析をおこなった。 データ収集については、(財)日本モンキーセンター所蔵の現生霊長類標本のほか、7月にはケニア国立博物館において中新世化石ヒト上科についてデータ収集をおこなった。また、平成19年1月と2月には、京都大学が所蔵する現代人骨標本の計測をおこない、現生人類のデータを取得した。 現生霊長類の中手骨では、母指を喪失しているものとしていないものがいるコロブス亜科とクモザル亜科について、重点的に検討を加えた。その結果、コロブス亜科では母指の有無によって中手骨の捻転角と中手部を横断するアーチ構造に違いが見られることがわかった。またクモザル亜科でもアーチ構造の違いが示唆された。こうした違いの一部は移動様式の差異を反映していると思われる。これらの結果は、第60回人類学会大会において発表した。
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