霊長類は手足に把握性をもつのが大きな特徴である。手足ともに、運動器として移動の際に環境と直に接する部位であり、さらに手には採食のための器官でもある。このような手足の形態を立体的に理解することは、運動適応を理解する大きな助けとなるが、中手部・中足部の3次元的形態はこれまであまり研究されてこなかった。本研究の目的は、真猿類における中手骨・中足骨の3次元形態と手足の把握機能との関係を明らかにし、さらに化石種への応用を図ることにある。 真猿類の手足の形態と、その把握性や運動適応との関係を理解するため、ヒトと大型類人猿を含むヒト上科と、オナガザル科、オマキザル科の各種霊長類について、3次元座標計測器を用いて中手骨、中足骨の形態計測をおこなった。取得した3次元座標データについて、中手骨、中足骨の捻転角を中心に分析し、種間比較をおこなった。 中手骨の形態では、ヒトを含む多くの真猿類において第4中手骨において捻転が弱くなるという共通のパターンが見られた。しかし、チンパンジーでは独特のパターンが見られ、ナックル歩行との関連が示唆された。 中足骨の捻転角にはかなりのバリエーション見られた。クモザル亜科のサルでは中手骨と同様のパターンが見られたが、ヒト上科では、ヒト、オランウータン、チンパンジーそれぞれに特異なパターンが観察された。また、コロブス亜科のサルでは第3中手骨で捻転が弱くなるパターンが見られ、跳躍運動との関連がうかがわれた。 これらの成果について、第61回日本人類学会大会において発表をおこなった。 このような骨形態からの知見を踏まえ、各種霊長類について前肢、後肢の筋系解剖をおこない、中手、中足部の形態と、筋の走行や運動との関連を考察した。また、生体での手足の形態を把握して考察を深めるため、(財)日本モンキーセンター附属博物館世界サル類動物園において現生真猿類各種の写真撮影をおこなった。
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