本研究では、貴重な学術資料である古人骨から、分析に必要な最低限の破壊で、残存するタンパク質コラーゲンを抽出するための、前処理方法を検討した。サンプリングに関しては、歯科技工士用ドリルを用いて、形態学的なダメージが少ない部位から、サンプルを採取する技術を確立した。また、コラーゲン抽出に関する様々な条件検討を行い、100mgを下回る骨試料からのコラーゲン抽出に関する基礎的なデータを得た。骨の無機成分であるハイドロキシアパタイトを塩酸で除去する脱灰過程では、エッペンドルフ管内で反応させる方法を試みたが、塊状試料では試料状態によっては数週間かかる場合もあり、微生物によるコンタミネーションの危険性が明らかになった。微量試料を粉砕するために、エッペンドルフ管内での凍結粉砕を実施したところ、エッペンドルフ管の微細破片が混入している可能性が、放射性炭素年代の比較検討から示唆された。従来使用してきたポリカーボネイト製の凍結粉砕装置では試料損失が大きく、微量試料の処理には向かないため、メノウ製乳鉢で個別に粉砕することで分析を実施した。プラスチック素材を用いない、微量試料の効率的な凍結粉砕法の開発が、今後の実試料の処理には必要だと考えられる。また、骨の窒素含有量がコラーゲン残量の目安になることが示され、そこから算出した分析必要量をサンプリングする方法で、古人骨資料に与えるダメージを最小限にすることが可能であることが示された。これによって、更新世人類資料など、極めて学術的な価値が高い資料に関しても、同位体分析を試みることが可能になった。
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