研究概要 |
瞬目(まばたき)は我々人類をはじめとする幾種かの限定された哺乳類のみに認められる行為であるが,その生理的機能や意義は未だ明らかにされていない.瞬目を司る眼輪筋は,魚類のエラ部分が進化・発達したものといわれており,四肢の筋とは生理的メカニズムを異にする興味深い筋の一つである. 一方,瞬目は運動機能が重度に障害された場合や高齢者においても,その機能は比較的残存することが多いことが知られており,今日では瞬目を利用した意思伝達支援装置の開発が盛んに行われている.しかしながら,意思を介して行われる随意性瞬目の他に,無意識的に生じる自発性瞬目がノイズとして混入することが原因で,意思を忠実に伝達出来るようなインターフェイスは未だ構築されていない.本研究はヒトの意思を随意性瞬目により表現しようとする意思伝達支援装置の開発を最終的な目標に定め,今年度はその前段階として,瞬目の生理的潜在機能に着目した研究を行った. 自発性瞬目が減少する症例として,大脳基底核におけるドーパミン作動性ニューロンの選択的変性によって発症するパーキンソン病がある.本研究では,自発性瞬目に関連するEMGをパーキンソン病患者について測定し,健常者と比較することで自発性瞬目に関する生理的機序の推定を行った.パーキンソン病患者において,自発性瞬目に伴う眼輪筋の活動量が統計的に有意に減弱していることが明らかとなり,自発性瞬目の生起に大脳基底核の関与が強く示唆される結果を得た.これらの結果を鑑みると,眼輪筋筋電図を指標として自発性瞬目を同定し,意思伝達支援装置へ応用する際には,少なくともパーキンソン病患者では筋電位が減弱していることを考慮する必要がある.今後,様々な運動機能障害者に関する眼輪筋筋電図のデータを蓄積し,個人差を考慮した対象者毎の判別基準を形成すること無しには,精度の高い装置の開発は困難であることが分かった.
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