高等植物ミトコンドリアは、細胞内に数百個存在しており、一般的にそれらはすべてミトコンドリアDNA(ゲノム)を持っていると考えられている。しかし、実測した例は非常に少ない。わずかな報告の中では、高等植物では、ミトコンドリアの数に対して、ミトコンドリアDNA量が少なすぎるという結論や、組織ごとに一つのミトコンドリア核様体が持つDNA量が変動するという結論に至っているものがある。しかしながらこれらの報告は、組織全体から抽出したDNA量をミトコンドリアの推定数で割ったような間接的な計算推論であったり、DNAのみの蛍光染色定量からの一面的な検討など、不十分な点があった。そこで、タバコの培養細胞と、イネの根を用いて、ミトコンドリアとミトコンドリアDNAを同時に染色、可視化する技術を開発し、ミトコンドリアあたりが持つDNA量を視覚的に解析した。その結果、ミトコンドリア一個あたりのDNA量にはかなりばらつきがあり、中にはDNAを全く保持していないと思われるミトコンドリアが存在することが分った。また、イネの根では、根端に近い部分(分裂組織を含んでいる)では、根の中心部や基部に比べて、DNAを保持しているミトコンドリアの割合が多く、またそれぞれのDNA量も多いということが分った。今後はさらにミトコンドリア個々がもつDNA量に加え、遺伝子の種類と数などについてFISH法などを用いて解析していく予定である。
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