研究概要 |
秋播性パンコムギ系統は出穂の低温要求性を決める遺伝子座であるVrn-1について全て劣性アリルを持ち、春播性パンコムギ系統はVrn-1について優性アリルを持つ。また特に劣性のvrn-A1アリルを持つ系統は優性のVrn-A1アリルを持つ系統よりも冬季の凍結低温耐性に優れているとされる。低温凍結耐性を決める主働遺伝子Fr-1はVrn-1に連鎖して座乗する。この生育環境に対応した2つの遺伝子座(Vrn-1とFr-1)のアリル間に連鎖関係があるのか、あるとしてパンコムギの持つ3つのゲノムA,B,D全てにおいていえるか、祖先野生種ではどうか、これらの問題に答えることが本研究課題の目的である。今年度、まず凍結耐性能の異なる秋播性パンコムギ品種Mironovskaya 808と春播性品種Chinese Springを用いて、凍結耐性能の違いと低温誘導性遺伝子群およびその転写因子をコードする遺伝子の環境ストレスに対する遺伝子発現応答パターンの比較解析を行った。その結果、凍結耐性能に優れた秋播性品種の方で遺伝子発現応答が速く、発現量も多いことがわかった(Kume et al.2005;Egawa et al.2006)。次に、特にDゲノムの連鎖関係を明らかにするために、日本の在来品種を用いて出穂特性および低温凍結耐性能を比較調査した。在来品種の出穂開花特性は概ね播き性の指数に一致したが、4系統について詳しくVrn-1座の低温条件下における遺伝子発現パターンを調べたところ、Vrn-A1,Vrn-B1,Vrn-D1いずれの遺伝子座においても多様性を示した(未発表データ)。すでに報告されているようにパンコムギの栽培品種ではVrn-1遺伝子座のプロモーター領域と第1イントロン領域に大きな変異が蓄積されている。この遺伝子における変異を評価するため、同じく大きなイントロン配列を有するホメオボックス遺伝子Wknox1の3ゲノム間の構造と機能を比較したところ、変異の蓄積は見られるものの機能が保存的であるように選択がかかっていた(Morimoto et al.2005)。
|