研究概要 |
デンプンは植物が生産する特有の構造をもったグルコース重合体であり,食品,工業材料として大量に利用されているが,その合成メカニズムは,未解明な点が多い。本研究では,変異体イネを用いて、デンプン合成に関わる多数のアイソザイムの個々の機能解明を行っている。 平成17年度は、既に我々が単離したスターチシンターゼI型(SSI),SSIIIa変異体の胚乳デンプンの構造および物性を解析し、各アイソザイムの機能について考察した。 1.SSIについて SSIは、イネ等の登熟胚乳の可溶性粗抽出液中のSS活性の半分以上を占める最も重要な酵素である。SSI変異体の胚乳デンプンの解析から、SSIは、他のSSアイソザイムに比べて、非常に短い鎖をターゲットにし、僅かしか伸長しない特徴をもつことが明確になった。また、完全欠失型の変異体でも、そのデンプン粒の形態、結晶性、アミロペクチンの分子量、種子の大きさ、形態等は、野生型と比べて変わらなかったため、SSIの完全欠失が他のSSアイソザイムの相補作用を生じさせることも明確になった。 2.SSIIIaについて SSIに次いで登熟胚乳の可溶性粗抽出液のSS活性に寄与している酵素がSSIIIaである。SSIIIa変異体の胚乳デンプンの解析から、SSIIIaは、アミロペクチンのクラスターを連結する長い鎖を伸長する機能があることが明確になった。一方、SSIIIaが完全欠失することで、SSIおよびGBSSIの二つのSS量が増加し、前者の増加が原因でアミロペクチンの短鎖が増加し、後者の増加が原因でアミロース含量およびアミロペクチンの超長鎖が増加していた。これらの胚乳デンプン構造や成分の変化はデンプン物性を劇的に変化させ、SSIIIa変異体イネの胚乳デンプンが新素材デンプンになり得る可能性があることが明確になった。
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