交雑不和合性の障壁を乗り越えるための新しい育種技術に資するため、アルストロメリアを材料に試験管内受精(人工受精)に必要な胚珠組織からの卵細胞の単離と、人工培地中で発芽させた花粉管からの精細胞単離条件の検討を行った。本研究における試験管内受精は、単離した卵細胞と精細胞を直接融合させる技術である。また、試験管内受精後の細胞(受精後の卵細胞:接合子)の培養条件および卵細胞との細胞学的差異を明らかにするため、受粉後の胚珠を供試し、接合子を単離する手法の開発を行った。 雌ずいが出現する前のアルストロメリアの花を供試し、子房から胚珠を摘出して解剖顕微下でカラザ部分を切除した。調整した胚珠断片を酵素処理し、倒立顕微鏡下で先端部分を鋭く加工したガラス針を用いて胚珠の解剖を行い、卵細胞のみを単離することに成功した。また、自家受粉した雌ずいを経過時間ごとに採取し、アニリンブルー染色により花粉管伸長を観察したところ、受粉24時間後に80%以上の胚珠で花粉管が珠孔部分に侵入していることが明らかになった。受粉24時間後の胚珠を供試し、開発した卵細胞単離方法と同様の手法により酵素処理とガラス針による解剖を行ったところ、花粉管と退化した助細胞とともに接合子を単離することができた。 アルストロメリアは2核性の花粉を持つことから、花粉管を人工培地中で発芽させ、雄原細胞から精細胞を形成させる培地条件の検討と花粉管からの精細胞単離技術の開発を行った。花粉発芽培地に酵母抽出物を添加することにより、アルストロメリアの花粉発芽が促進されることを見出した。花粉発芽後、18時間以降の花粉管をDAPI染色することにより、花粉管内に2個の精細胞を単離することができ、現在、花粉管からの精細胞単離方法について検討を行っている。
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