研究概要 |
昨年度までの研究成果をもとに,埋土種子集団に関するデータの詳細な解析を行った。丘陵地の微地形区分と管理履歴から,農用・薪炭林管理されていた3つの微地形区分(頂部斜面,下部谷壁斜面,谷頭凹地・平低)と,刈取り草地管理が行われていた1つの微地形区分(下部谷壁斜面)の4類型に整理し,それぞれの類型において適切な管理後に成立する植生を特徴づける種群(以下,管理特徴種)を既往データより抽出した。それらの種群が,管理放棄20年以上経過した調査区から採取した埋土種子集団に存在するかを4類型ごとに解析した結果,いずれの類型においてもその種数割合や種密度は非常に少ないことが分かった。比較対象とした管理再開調査区においては,現存植生に管理特徴種が確認できるようになり,埋土種子集団からも実生出現した。しかし,必ずしもすべての管理特徴種が,埋土種子から出現しないことが分かった。これは,管理特徴種の個体群再生に埋土種子集団の寄与は高くないことを示唆し,管理特徴種が現存植生にみられる調査区でも埋土種子集団に存在していないことから,管理特徴種の繁殖戦略として,種子繁殖が限定的であることもあわせて示唆する結果となった。一方,埋土種子集団の種構成は,調査区に対応しており,その類似関係をみたDCAの結果から,現存植生の種構成を決定する環境要因と,埋土種子集団のそれは,非常に類似していることが分かった。さらに,種の豊富さについても,現存植生と埋土種子とよく対応した結果であった。すなわち,現存植生と埋土種子集団の種構成は大きく異なっているものの,その構成を決定する環境要因は類似しており,また,種の豊富さも対応関係にあることが明らかとなった。以上から,管理再開後の速やかな林床植生の変化に,埋土種子の貢献は少ないこと,微地形単位に対応して管理後に出現する種は長期間残存する埋土種子集団を形成しない可能性が示唆され,丘陵地里山二次林における植生再生ポテンシャルは,微地形区分を問わず埋土種子組成から判断することはできず,周辺個体群の維持状況に左右される可能性が高いと結論づけられた。
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