果実はその成熟特性によりクライマクテリック型とノンクライマクテリック型果実に分類されるが、本研究の研究対象であるノンクライマクテリック型果実の成熟機構は不明な点が多い。そこで、本研究ではまずノンクライマクテリック型果実であるブドウ果実でプロテオーム解析を行った。とくに成熟前後で様相が大きく異なると期待される細胞壁画分について解析を行ったところ、11のスポットにおいて明確な発現量の差が認められた。そのうち発現量が多かった9つのスポットについてMS解析を行い、現在6つのスポットについてアノテーションが終わっている。3つのスポットのPMFパターンはTIGRデータベース上のESTクローン'TC45204'と一致した。TC45204はシグナルペプチドを持つタンパク質をコードしており、細胞外に分泌していると期待される。また、3つのスポットが同一の遺伝子由来であることが示唆されたことから、細胞がにおいてTC45204タンパク質は複数の翻訳後修飾を受けていると考えられた。スポットパターンからこの修飾は成熟前後で異なっていると推測されており、ブドウ果実の成熟において何らかの機能を果たしている可能性が示唆される。もう一つの研究材料であるウリ科植物についてはメロン品種‘ハネデュ'が非常に興味深い特性を示すことを明らかにした。この品種ではクライマクテリック果実に典型的な自己触媒的エチレン合成能が欠失しており、一見、ノンクライマクテリック型果実のような成熟特性を示す。リアルタイムPCRで解析を行ったところ、エチレン合成に関わる遺伝子であるACSとACO遺伝子の遺伝子発現が共に抑制されていた。‘ハネデュ'ではエチレン合成以外の成熟特異的な現象は正常に起こることから、エチレン信号伝達のうちEIN3以降のエチレン合成に関わるシグナル経路に変異が起きていると考えられる。従って、この品種の解析から果実成熟時のエチレン合成の制御機構を明らかにし、ノンクライマクテリック型果実の成熟機構を解明する上での基礎的知見が得られると考えられた。
|