近年、リンゴやブドウの果実着色機構について研究が進み、アントシアニン合成系についても、分子レベルでの解析が進んでいる。これらの果樹では、高温によりアントシアニン合成が阻害されることが明らかとなっており、30℃を超える条件で栽培すると、果実着色は不良となる。一方、最近日本で栽培が拡大しているマンゴー‘Irwin'はハウス内の高温下で栽培されているが、'特にアントシアニン合成が阻害されることもない。これまでに、光がマンゴー果実のアントシアニン合成に影響を及ぼしていることが明らかとなっているが、温度との関係は明確になっていない。本研究では、低温処理がマンゴーの着色に及ぼす影響について調査した。 本学湯浅農場で栽培されているマンゴー‘Irwin'を実験に供試した。低温処理区では、果実周囲に冷水を流すチューブを設置し、果実周囲の気温を20℃〜15℃に保った。対照区は、冷水を流さずチューブだけを設置したものとした(果実周辺気温40℃〜20℃)。果実着色開始前の7月下旬から処理を開始し、各処理区における果皮の色調、アントシアニン、クロロフィル、カロチノイド含量を経時的に測定した。低温区の果実ではa値が低くなり、赤色発現がやや劣るように見えたが、アントシアニン含量にはほとんど差がなかった。一方、クロロフィル含量は、対照区では成熟期にかけて著しく減少したのに対し、低温区ではほとんど減少していなかった。これらのことから、低温区で赤色の発現が劣るように見えたのは、クロロフィルによりアントシアニンがマスクされたことが原因であると考えられた。また、低温処理区では果実の成熟が遅れる傾向が見られた。リンゴやブドウなどでアントシアニン合成を促進するとされる20℃前後の気温は、マンゴーにおいて特に促進効果はなく、逆にクロロフィル含量の減少を抑制することで、赤色発現の低下をもたらすことが分かった。今後、アントシアニン合成系遺伝子やクロロフィル分解酵素の発現解析も行い、これらの点について分子レベルでの解析を進める予定である。
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