研究概要 |
近年、日本でマンゴーのハウス栽培が拡大しつつあり、高級果物としての需要が高まっている。日本では主に‘Irwin'が栽培されており、成熟期に鮮やかな赤色を呈するのが特徴である。温帯果樹のリンゴやブドウでは、高温によりアントシアニン合成が阻害されることが示されており、30℃を超える条件で栽培すると、果実着色は不良となる。一方、マンゴー‘Irwin'は40℃を超える高温下で栽培されているにも関わらず、着色への影響はあまり見られない。本研究では、マンゴーの着色と気温との関係を明らかにするために、低温処理がマンゴーの着色に及ぼす影響について調査した。 低温処理(果実周辺温度を20〜25℃に保つ)した果実では、アントシアニン含量は対照区(果実周辺気温25〜45℃)と差がなかったが、クロロフィル含量の減少が抑制され、果皮はくすんだような赤色になった。一方、アントシアニン合成系(PAL, CHS, ANS)の遺伝子発現は、低温処理によって増加していた。 夜間のみ低温処理を行った果実でも、アントシアニン含量は対照区と同程度であり、低温によるアントシアニン合成の促進は見られなかった。それに対し、遮光処理を行うと、アントシアニン含量は著しく抑制され、また、夜間低温処理と遮光を組み合わせると、アントシアニン蓄積とクロロフィル分解が共に抑制されることが示された。マンゴー果皮におけるアントシアニン合成系遺伝子群の発現量はアントシアニン含量と相関が低く、低温や遮光が遺伝子発現に及ぼす影響は明確でない。以上の結果から、マンゴー‘Irwin'の果皮におけるアントシアニン蓄積は、30℃以上の高温でもほとんど阻害されることなく、気温の影響は光の影響と比較して小さいことが明らかとなった。20〜25℃程度の低温は、成熟を遅延させ、クロロフィルの分解を妨げることから、赤色を鮮やかに発色させるためには適さないと考えられた。
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