アブラナ科野菜類炭疽病菌の感染器官分化時における各器官よりRNAを回収し、完全長cDNAライブラリーを作成した。その中から、任意の1700クローンについてシーケンス解析を行い、本菌の感染器官分化時に発現している遺伝子群の配列情報を得ることに成功した。個々の配列情報について、糸状菌および酵母ゲノムデータベースを対象にしたBLAST検索を行い、相同性から予測される機能に基づき遺伝子分類を行った。その結果、1110個が既知遺伝子と相同性を示し、その内訳は遺伝子発現20%、細胞分化21%、代謝20%、機能未知39%であった。 既知遺伝子との相同性に基づき各遺伝子の機能を予測することは可能である。しかしながらその機能を実証するためには、各遺伝子について相同組み換えを利用した特異的破壊株を作出し、その性状解析を行うことが望ましい。当研究室ではこれまで、アグロバクテリウムを利用して数種の糸状菌の効率的な遺伝子破壊実験系を確立してきたが、その中でアブラナ科野菜類炭疽病菌の相同組み換え効率が他の供試菌と比較して著しく低いことが明らかになった。この結果は、本菌で効率的な遺伝子機能解析を行ううえでの大きな障害になると予想された。近年のアカパンカビ研究の中で、遺伝子修復に関与する遺伝子Mus-51の破壊により、相同組み換え効率が上昇するとの報告があったことから、これと同じ現象をアブラナ科野菜類炭疽病菌で再現することができれば、上記の問題を解決できると考えた。そこで、保存配列を利用したPCRクローニング法により、アブラナ科野菜類炭疽病菌のMus-51オルソログ(ChMus-51)を単離した。その推定アミノ酸配列はアカパンカビのそれと60%の相同性を示した。現在、ChMus-51遺伝子破壊株の作出を行っている。
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