研究概要 |
微胞子虫の感染成立には特異的レセプターや接着因子などは関与しないとされているが,これまでに我々は,細胞レベルでの宿主-微胞子虫適合性の存在を確認してきた。本研究では,微胞子虫の宿主細胞適合性を明らかにするため,微胞子虫を接種した適合性細胞および非適合性細胞における各細胞小器官の変化と微胞子虫との関わりを,形態学的および分子的に検証することを目的としている。 本年度は,微胞子虫としてカイコ病原性微胞子虫のNosema bombycis NIS 001,Nosema sp.NIS M11,未記載種TB-2M-H1およびTB-2L-H1株を,昆虫培養細胞系としてヤママユガ科昆虫由来Antheraea eucalypti,ヤガ科昆虫由来Spodoptera frugiperda SF21AEII,カイコガ由来Bombyx mori BmN4およびBmC-140細胞系を供試して,各組み合わせにおける双方の形態学的変化を万能顕微鏡および透過型電子顕微鏡下で詳細に観察した。供試した微胞子虫-昆虫培養細胞系の各組み合わせにおいて,宿主細胞適合性に関与するような形態学的差異を明確にすることはできなかった。TB-2L-H1株はB.mori BmN4細胞系においてのみ宿主細胞を融合,多核化する能力を有しており,巨大なシンシチアを形成した。また,N.bombycis NIS 001株とヒト子宮頸部癌由来HeLa S3細胞系の組み合わせにおいて,28℃および37℃の培養温度条件下で同様の形態学的検証を行った。28℃培養区ではスポロプラズムからの正常な成長,増殖が観察され,胞子接種48時間後から早生型胞子の孵化殻および二次感染体が確認された。一方,37℃培養区では,胞子から射出されたスポロプラズムがHeLa S3細胞細胞質中に侵入しているのが観察されたが,原虫細胞核は徐々に崩壊していき,その後の成長は全く認められなかった。
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